アラサー・アラフォーは読んだほうがいい。
書評も何もあったもんじゃないが、この漫画については先に言ってしまおう。
主人公のまい子は都内のオフィスで働く32歳。仕事もそつなくこなし、同僚とも関係良好、職場以外の友達もいる。年齢相応にメイクやネイルも楽しんでいる。
しかし処女。そしてそれをとてもコンプレックスに思っている。
そんなまい子にある日気になる男性が出来て…
書誌情報
書名:瓜を破る(うりをわる)
作者:板倉梓
巻数:6巻、以下続刊(2023/1時点)
この漫画で描かれていること・漫画の特徴
- 何でもそつなくこなすが、恋愛経験がほぼなく処女であることをコンプレックスに思っている主人公
- 恋愛経験が少ないアラサー男女が体験する恋心と人に触れたい気持ち、しかし経験が少ない故に戸惑う異性との距離感
- 主人公と同じオフィスで働く同僚たちも、それぞれセクシャルや年齢や立場に悩みを抱えながら生きていく
- 重めなトピックも取り扱っているものの、救いも多く、作品全体を取り巻く雰囲気は暗くない
感想
32歳の純粋な恋
そういえば、セックスって本当に好きな人とするものだった。
10代後半から20代中盤までを魔都東京で過ごしていたせいか、はたまた最近バタイユを読んだせいか、そんな当たり前のことを忘れかけていた私の心に差し込んだ一筋の暖かい光、それがこの漫画である。
主人公の恋愛がとにかく青い。32歳にして処女の主人公は、ある日気になる男性ができるのだが、チャットの文面に悩み、どうやったら継続的に会えるかに悩み、相手が自分のことをどう思っているかに悩む。しかも好きな相手も主人公と同じようなタイプなので、なかなか関係が進まない。とてももどかしい。高校生のようだ。
しかし、主人公たちは、高校生なんて目じゃないほど人生経験を積んできている。その経験をもとに好きな相手の気持ちに寄り添うこともできるし、逆に長く生きたからこそ凝り固まってしまった部分を愛情によって溶かされることもある。ティーンとは思いの重みが違ってくる。
学生の恋愛が軽いと言いたいのではない。年をとればとるほどに、本気で人を愛するときに体重が乗りやすいという話だ。
そして重みの乗った純愛はどうしようもなく美しいものでもある。
それにより、私のような三十路男がきゅんとしてしまうことになる。
気持ち悪いか?まあ、成人男性がきゅんとしたっていいだろう。大目に見てほしい。むしろ最近はこういうものでしかきゅんとできないのだ。存分に堪能させてくれ。
そして三十にもなると、ひとりでは抱えきれないので、これを読んでいるあなたも体験してほしい。
アラサー・アラフォー、人間関係悲喜交々
主人公たちのラブストーリーが物語の主軸ではあるのだが、彼らを取り巻く人々も年齢相応に様々な悩みを抱えている。
・異性に恋愛感情はあるが、性欲がわかない主人公の同僚
・仕事に打ち込むがあまり、長年同棲している彼氏とぎくしゃくしており、関係性のゴールが見えない先輩社員
・初体験の相手に実は彼女がいたことがトラウマとなり、人に対してドライな態度しか取れなくなった後輩社員
・仕事、育児、趣味、全てが中途半端になっていると悩む先輩社員
等々、絶妙に読者の身近にもありそうな人間関係の悩みをみんな抱えて生きている。
そんな悩みを解決しようともがくこの漫画の登場人物たちが教えてくれること、それは人と真正面から向き合うことの大切さである。
ある程度の年数を生きていると、関係の長い相手とはお互い何となく察しあい、多少の不満は飲み込み、小さな不満を積み重ねながら生きていくことが多い。
小さな不満は小さな亀裂となり、やがて人々の間に大きな溝を産む。溝が生まれてしまったときにどうすればいいのか。
相手に取り入るちょっとズルい手段も思いつく年齢だ。しかし、根本から解決するには、人に対して素直になり、自分の気持ちを伝えたり相手の気持ちを汲んだりするしかない。そうすることでしか動かせない人や物が確かにある。
登場人物たちと一緒に泣き、笑い、感動するとともに、自分ももっと他人に素直でいいかもしれないと思わせてくれる漫画である。
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